蒐集をはじめる者への、五つの忠告
最初の三年で棚が壊れないために
眼鏡を集めはじめる人は多いが、三年続く人は少ない。理由はたいてい情熱の枯渇ではなく、管理の破綻である。ここでは当会の会員が繰り返し口にする忠告を五つ、まとめておく。
一.最初の十本は、掛けられるものだけにする
飾るための一本は、十一本目以降でよい。掛けられない枠が棚に増えると、蒐集はあっという間に停滞する。
判断基準は単純で、いま度を入れて明日から使えるか。この問いに「いや、これは……」と答える枠が半分を超えたら、方向を見直す時期である。
二.入手した日に、記録をつける
後回しにすると必ず忘れる。入手先、価格、状態、刻印、そしてなぜこれを選んだか。最後の一行が、数年後にいちばん効く。
記録様式は当会の七項目を使ってもよいし、独自のもので構わない。重要なのは、同じ項目を、毎回、同じ順で書くこと。項目が揺れると比較できない。
三.重ねて保管しない
これは事故の話である。
- 枠どうしが触れると、必ずどちらかに傷が入る。
- 積むとテンプルに恒常的な力がかかり、数年で開く。
- 硬いケースに詰め込むと、フロントが反る。
推奨は立てて、一本ずつ、間隔をあけて。フェルトを敷いた引き出しがあれば理想的だが、なければ仕切りのある箱でよい。
四.年に一度、全部を出す
棚の奥は死角になる。年に一度、全部を出して並べ、次を確認する。
- ネジの緩み(緩んだまま掛けると玉が落ちる)
- 鼻パッドの劣化(黄変・硬化)
- セルロイドの反り
- アセテートの白化
- 一年間、一度も掛けなかった枠
5番が本題である。二年続けて掛けなかった枠は、おそらく今後も掛けない。
五.見送ることを、覚える
蒐集の技術の大半は、買う技術ではなく買わない技術である。
見送るべき枠には共通の兆候がある。
- 修理が前提になっている(修理できる人の当てがないなら、それは部品である)
- サイズが明らかに合わない(「詰めればいい」はたいてい実行されない)
- 「珍しいから」以外の理由が言えない
- 価格が判断を歪めている(安すぎる/高すぎる、どちらも同じ)
とくに最後が難しい。安いから買った枠は、安かったという理由だけで棚に残り続ける。
当会では、席に持ち込まれた枠について「買わなかった理由」を述べる慣習がある。買った理由より学びが多いためである。 この慣習の由来については記録がない。
付記
蒐集は所有の量を競う行為ではない。手元の一本一本について、どこから来て、どう変わってきたかを語れる状態を保つことである。
語れなくなった時点で、それは蒐集ではなく堆積である。